多摩川を下る 6日目「八高線の鉄橋から是政の公園まで 」

多摩川を下る 6日目「八高線の鉄橋から是政の公園まで 」

朝起きるともう日が高い。

あー昨日は夜遅くまで飲んでたんだっけ。
何故か隣ではMK君が寒かったのだろう…小動物のように縮こまって寝ている。
泊まらずに帰るって言ってたけど、仕事は大丈夫なのか??
彼の身体をゆする。

今日は行かなくても大丈夫な現場だからなんとかなるとの事。
そんな事で正社員が勤まるのだろうか?

彼の高性能バーナーで簡単な朝飯を作ってゆっくり食べ、そしてお茶を沸かす。

ようやく荷物を片付け出発!!

え?!もう昼を回っている。

二人で二日酔い気味のモーニングタイムをゆっくり過ごしていたら、あっという間に時間が経ってしまった。

別れを惜しみ、僕はカヌー乗り込み、MK君は手を振る。
前方、川は瀬に変わりカーブし、そのカーブの突き当たりにテトラポットがある。

流れは何故かスーッとテトラに吸い込まれていく、こんなの難なく回避出来るとカヌーを曲げようとするが、流れが思った以上に加速し、曲がれない!!!

テトラにカヌーごと吸い込まれていく、身の危険を感じ脱出しようとするが予想していなかっただけに体が動かない。テトラに挟まりカヌーは裏返り「沈」した。

それを見ていたMK君も小さなグランドキャニオンの水路を飛び越え、助けに走る。
ずっと手を振ってたのに随分早い再会である。

なんとか脱出し、事なきをえるが、カヌーがテトラに挟まり二人で力を合わせて抜き取る。

御嶽以来初めての沈。
防寒着も荷物もずぶ濡れ。さらに大切な携帯電話も壊れた。
防水袋を持っていたのに、よもやこんな所でひっくり返る事もあるまいと、面倒くさがってポケットに突っ込んでいたのがアダとなった。
これはかなりショックであった。
着替えはビニールに入れ無事なのが唯一の救いだ。

そしてやめておけばいいのに、なんでもなさそうな所で沈したのが悔しかったのか、僕はテトラの少し手前からカヌーにのり込んだ。

さっきは油断しただけ、カヌー乗りの意地にかけてもここをクリアする!!

そして・・・またしても沈!

先程と同じ事を二人で繰り返す。
ただ今回はある程度予想してたので、すぐに脱出でき、下半身だけのずぶ濡れですんだ。
バカである…

ここは構造が悪い、なんでこんな所にテトラを置くんだ、危険すぎる!とひとしきり悪口を言いすべてを行政のせいにし、テトラの下流から再び出発。

今から思えば、あの現場で馬鹿騒ぎしたバチが当たったと思えなくもない。

出だしこそ沈したものの昨日に比べるとこの日は順調。
八王子からの浅川も合流し、水量もますが、このあたりそれにしても鯉が多い。
綺麗な模様の鯉だったらいいが、すべて黒や灰色のドブのような色をした鯉だ。

京王線が渡る関戸の橋付近は川が広く浅くカーブしているのだが、水底に黒い石が敷き詰められているな、と思い近くまで来てみたら、水は全て黒っぽい鯉の大群で埋まっていた。
鯉の大群は浅い水面に半分顔をだし、流れに逆らい留まっている。
これはさすがに気持ち悪かった。鯉を踏みつけるようにしてカヌーを曳いていく。
匂いもなんか臭い。

そこを抜けると、川幅が広くなり葦の原が両岸続いている。
水路が幾重にも別れ、葦の島々の中カヌーで静かに進む。
葦の河原の向こうには高層ビルがいくつか見え、印象的な景色の中、進む。

葦の原には人が結構住んでいるらしい。
葦を刈っている人がおり、河原のあちらこちらから夕食の準備の煙りが立ち上る。

失礼な言い方だが、現代の河原乞食であろう。全てを捨てて、ああいう生活も悪くないナと思う。

それにしても広い葦の原は静かである。

自分が今いるのが近代的な現代なのか、太古の時代なのかよくわからない不思議な錯覚に陥る。

携帯も壊れ、社会との繋がりは途絶え、僕も現代の人間ではなくなった。

独り寂しい水墨画の一枚絵の中に入ってしまったような気分。

日が暮れてきた。お腹も空いてきた。僕も河原で料理しよう。

しかしこの日はスタートでつまづいたせいで全然進めてない。少しでも先に行かねば……。
日もとっぷりと暮れかけた頃、広い公園がある河原についたので、カヌーを降りる。

スタートして6日目…さすがに疲れも溜まってきた。重い体を引きずるようにフラフラしながら公園の土手を上がる。

一面の桜並木が目に飛び込んできた。

スタートした時は雪景色だったのに、、川を下っている間に、季節が変わったようだ。
この日はこの時間になっても妙に暖かく、ここらの桜は一斉に咲き出したようだ。

寂しい葦原の冬のような景色を進んできただけに、季節感が狂う。
それに妙な暖かさもあり、突然の春に戸惑い、なんか妙にワクワクする感じと、かなりの物悲しさが同時に沸き起こる。

春は人を狂わせる。

非日常の川旅での春の訪れは、一層その感を強くさせた。

無意味に散歩したくなり、日が暮れ、真っ暗になった街を歩く……競艇場のある是政という街だった。
ヤマザキデイリーストアがあり、公衆電話からH氏に連絡した。

いつもと変わらぬH氏のとぼけた声を聞き、この奇妙な世界から抜け出した感じがして、人心地に還り、
ようやく一息つけた。

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